19世紀は貝の濃淡を用いた絵画的技法のカメオは少なく、彫刻的要素の強い時代であったこともあり、絵画をモチーフとしたカメオも現代ほど多くみられるものではありませんでした。
例外的にキリスト教に関連する宗教画をモチーフとしたものは作られており、グイド・レーニやラファエロ・サンティによる「サタンを倒すミカエル」をモチーフとしたカメオは海外の中古市場で稀に出回り、いずれも高品質であることから競りが盛り上がるのが常です。
本作もそういった関連から作られたと思われる作品で小粒ながら丁寧な仕事が光る一品となっております。
モチーフは聖母マリアで、フィリッポ・リッピの「聖母子と二天使」よりマリアの像を描き出したもの、当ギャラリー所有の作品群をご覧の方にはジョヴァンニ・ノトによる同モチーフの作品でもなじみ深いかと思います。
ヴェールの細かな波打ちや真珠のサークレットといった緻密な彫刻の技術のほか、描写の難しいわずかに斜めを向いた横顔の美しさも見どころとなっており、仮に一般的な2インチ×1.5インチであればどんなに低く見てもカタログは固い彫刻師の手による小さな名品になります。
非常に良好とまでは言えませんが、十分健全な部類といえる状態です。
色合いは9ktっぽいのですが裏面をよくよく観察すると金無垢ではない感じがします。
しかし金張りにしたってわざわざ9ktなんてローカラットを巻くか?と考えると、いわゆるピンチベック(一般に真鍮のこととされるが、8kt合金ともいわれる)と呼ばれるものかもしれません。
留め具は古典的なC型クラスプで、現在でも働きは健在。
重量的にも扱いやすく、実用アンティークジュエリーとしても優秀です。